プロフィール

写真:武藤一彦氏

武藤一彦(むとう・かずひこ)

ゴルフジャーナリストとして新聞、テレビ解説で活躍。2005年から夏泊ゴルフリンクス理事。2017年理事長就任。他に日本プロゴルフ協会理事、世界ゴルフ殿堂選考委員などを務める。

1964年報知新聞社に入社。ゴルフは国内ツアーはじめ全英オープンなど世界メジャーを取材。スポーツジャーナリストとしてボストンマラソン、プロボクシングの世界タイトル戦なども取材した。

中でも全英オープンゴルフは1977年、スコットランド・ターンベリーのワトソン・ニクラウスの"世紀の対決"以来、数々の名勝負を観戦。リンクスコースへの強い思い入れと造詣で知られる。
1939年生まれ、東京出身。立大時代はゴルフ部。

2020年9月 アーカイブ

北の夏泊リンクスから ゴルフレッスンのすすめ

 コロナ禍による数々の規制で伸び伸びとなっていた夏泊を8月末、半年ぶりに訪れた。各委員会と理事が合同で出席する理事・委員合同会議が、伸び伸びになっていた。2月、まだ雪の中で開催された第1回の理事会以来の青森だった。
 新幹線利用の移動日の初日、市内で夕食をとった。町は車の往来が少なく、広い片道3車線のメーンストリートは、ネオンが煌々と明るいのだが、人がいない。今年はねぶた祭も中止され経済の停滞を招いた。いつになくおとなしい街並みは砂漠の町、ラスベガスのように広かった。

 翌日は会議に先立ち理事・委員、32人が参加する恒例のスクランブル競技。4人一組がチームを組み、第2打地点の最適点からホールアウトまで4人が同じ地点からグリーンを狙うオルタネイトのチーム戦。密着、密集を避け、グリーン上、バーディーが出ても“ひじタッチ”でささやかに祝福するなど何かと不自由。そこは4人一組のカートプレー、国や地方自治体が5人以上の集まりに自粛を促す呼びかけをクリアし、プレーを楽しんだ。

 ゴルフはもともとクラスターの心配がない。ましてや下手同士(いや自分のことです)、スライスとフックにチョロとダフリが入り混じり密着する暇もないスポーツだ。クラブハウスは広くロッカーも温泉風呂もプレー終了順の時差利用。いま時こんな最適なスポーツはないと思う。コロナ発生でオリンピックまで中止になってスポーツの特性はどこかに追いやられ、スポーツ行事は軒並み中止に追い込まれてしまった。本来スポーツは元気で長生き、人生に必要不可欠な存在だったハズが、真っ先にスポイルされた。もっと積極的に打倒コロナを前面に打ち出せなかったか、と歯噛みしているのだが、こんなことを言うこと自体が憚られるのだから悔しい。

 前置きが長くなったが、その翌日の3日目、夏泊リンクスでは理事、山本幸路プロによるラウンドレッスン会を開催した。実はゴルフ界は男女のトーナメントも中止や延期でズタズタ。いつ解決できるかわからない混迷の時代である。しかし、最盛期の夏をむざむざとやり過ごすには危機感を持った。そこでかつての関西オープンチャンピオン、山本プロに活を入れてもらおうとレッスン会を開催してもらった。この内容が素晴らしいので紹介する。

 

 スタート前、アプローチ練習場。プロは全員にまずグリーン周りから好きなクラブで20ヤードほどのアプローチから始めた。「体を起こしスタンス中央に球を置く。アドレスでグリップエンドは胸のくぼみを指すようにアップライト。そのアドレスからスタンス真ん中の球を左右対称スイング。クラブフェースの中心で球の中心を打って送り出す」と姿勢と中心で打つことを強調。たちまち覆いかぶさっていた姿勢がすっくと立ちアドレスが美しくなった。黙々と10分、全員、基本ができたのを見届けると次に「球を右足よりに置き、フェースをピンに向けインサイドアウトに打ち転がる球。それが出来たら、球を左、フェースを開いてピンへ向けアウトサイドインでピッチエンドラン」この練習は5分くらい。驚いたことに球はカップ回りにすべて集まった。
 基本があり、その上に立って球を右にインサイドアウト、その時フェースをカップに向ければランニング。球を左に置きフェースを開きカット気味に打てば球は高く飛びスピンがかかってピッチエンドラン。プロはスイングとフェースの向きによる球の打ち分け方、ボールコントロールを一番小さな、アプローチで教えたのだった。

 この“理屈”はその後のラウンドレッスンのテーマだった。これが基本となってヤマモトワールドは魔法のように自在に展開した。参加者はクラブチャンピオン3年連続のつわものからビギナーの女性ら9人。レッスンは3人一組に分け、10番からプロが3ホール、付きっ切りでラウンドレッスン。次いで2組目は13番から3ホール、最終組は16番から、プロが3ホールを単位に徹底レッスンの実戦だ。

 

 夏泊12番、池越え140ヤードの難ホールだった。強い風が左から吹いた。ティーイングエリアでプロは「スタンスはピンにスクエア。風が左から強く吹いているのでクラブフェースをピン左5メートルへ向け、しっかりスタンスの向き、ショットはピンへまっすぐ振ってください」。メンバーの男性二人はグリーン周りへ。池に入れずホッとした雰囲気。3人目ビギナー女性。緊張していたが、プロは男性陣と同じ支持を繰り返すと女性は、8アイアンのショットをピンにまっすぐ、見事なストレートボールでピン左の2メートルにつけた。プロはしてやったりと「ナイスショット」と拍手。「スタンスをピンへ。フェースだけを左に向け左の風に負けないようにしてピンにまっすぐ振り切った。ゴルフをやって、間が無い女性は素直で成功率が高い」とほめた。

 プロはフック、スライスを自在に打てるからうまいと思っていたが、こうして余計なことをせず、風の向きにフェースをねじってピン左5メートルへ向けただけで、ストレートに変えた。強風が左から来ているのだから左へフック。フェースを向けるだけでできるのだからだれでもできる。やることが決まり準備を整え、あと好結果を楽しみにショット。女性の虚心坦懐(たんかい)さに驚くと同時にゴルフの深さを見た思い。それにしても140ヤードを8アイアンだ。フェースを左へ向ければ確かにつかまりはよくなり回転も良いアイアンショットは風に強いが、いまどきの女性のパワーアップには驚きだった。

 

「左足上がりのアプローチはインサイドアウト。腰の高さまで手をあげて左ひざの前で打ち込んで30ヤードのアプローチショット」

「左足上がりのフェアウエーウッド。球は右に置き、フェースを開き、インサイドアウトスイング。左足上がりライなのでクラブのトウ(先の方)で打つと芯に当たる」

「両ひざを折り広いスタンス、ひざを伸ばさず球の下を打つつもりでしっかり手を伸ばせ。だが、大振りするな。急坂の前下がりショット」

「男は手で打つ。女は足で打つ。女性の方がゴルフを知っているかな?人間足で歩けば10キロ歩くが、手では10メートルも歩けませんよ、男性の皆さん」

 

 プロの即席の格言は耳に心地よかった。

 ―バックスイングで力が抜けない。クラブ選手権3連勝の米沼貴之さんの悩みにはプロは「肩の力を抜き軽いキャッチボールのつもりで打てばよい。上体の力を入れないゴルフが下半身を生かし、鍛えます」とたちどころに矯正した。男性陣にとぶ”叱咤“はどれも力みすぎでガチガチに固まった肩、ひじ、グリップから脳裏に心地よく、反省を促してたちまちリラックス、面白いように快音が続いたものであった。

 

 青森のシーズンは残り2か月。コロナの影響は先行き予測を阻んでもどかしい。だが、以前にこだわっても仕方ないと思う。1日も早く心の平穏を取り戻し心置きなくゴルフに取り組む。そんな日のためにフェースの向きを変えるゴルフ。フェース、すなわち顔の向きといってよい。顔を新たな向きに据えて自分の世界をかえて行く時代が来るような気がする。心穏やかに、しかし、前向きにいいゴルフをしたいものだ。その日を目指し、夏泊からのプレゼントで~す。

2020年9月7日

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