長尺論争
あなたはどう考えますか?
―からだに固定する中長尺パターは違反に議論百出
かつてのスタープレーヤーや懐かしい往年の名手たちが織りなす米シニアのチャンピオンツアーでロングシャフト、日本で言う中長尺パターの使用が可か、不可か、の論争が盛んです。
へール・アーウインは普通のパター使用。「ゴルフそのもののプレー方法から大きく離れすぎるロングパターは反対。だからと言って禁止すべきとは思わない」。トム・カイトは長尺。「ゴルフというスポーツをもっと現実的なものにする必要があると思う。ロングパターを禁止するというなら全面的に支持する」。長尺を使用してツアーの最優秀選手を史上初めて3年連続獲得したドイツのベルンハルト・ランガーは、「ロングパターが明らかにパットをやさしくしているのならもっとたくさんの選手が使用しているはず。全体の15%から多くて25%ほどしかいないものをいまさら問題視するのは理解できません」と、もう少し時間をかけて議論すべきだという立場です。
では何が問題なのか。体の一部にグリップエンドを固定する動作、「アンカーリング」と呼ぶ“技術”、これがゴルフの動作としては、違反ではないか、が論点です。
胸やあごを支点とする長尺、最近多く見られる腰(ベリー)に支点を定めるベリーパターが対象です。
長尺が出てほぼ30年が経ちます。出現したのはアメリカシニアツアーが立ち上がった1980年直後でした。数人が使いはじめると「オールドマンパター」(年寄りのパター)と、くすくす笑いとともに認識され始め、「あんな変なかっこでうまくいくわけないよ」と言っている間に、レギュラーツアーにも使用者が続出、世界中に広がって一種のゴルフスタイルとして定着、ルールも公認する勢い。
「年寄りの道具だから」と笑っていたものの、「方向が出やすい」「ショートパットに最適だ」と“利点”が認められ、安定志向のプレーヤーに珍重されました。一方でイップスに悩んだ人の“最後の手段”にもなってゴルフ普及の手助けになっていることも否めません。
しかし、ここにきて、やっぱりこれは良くないのではないか。そんな空気なのです。
きっかけは7月の全英オープン。アーニー・エルスとアダム・スコットの大激戦となりエルスが逆転勝ちしたあの試合です。グリーン上、エルスは中尺、スコットは長尺だったことは記憶に新しい。これが論争に火をつけ、ゴルフルールの総本山、英・R&A、米・USGAが各国の協会を集め、禁止に向けた検討を考慮し始めたのです。100年を越えるゴルフの歴史で優勝争いする選手が2人そろって伝統的なパットスタイルではないのはおかしい。ゴルフ発祥の地でのこだわりもあったのかもしれません。
冒頭のアーウインらの反応は9月のものです。いずれにしろ簡単に決まらない問題です。ある選手は言っています。「短いパターに対して明らかに有利になるものではないとわかっているし、多くのゴルファーが使用している道具でもない」かまわないじゃないか、と問題視しません。
「イップスでゴルフから離れた人をコースに連れ戻すきっかけになるのならゴルフ人口拡大に大いに役立つ。素晴らしいことじゃないか」別のひとりは、道具一つでゴルファーが減ることを留められるのならほっておけよ。一理ある意見かもしれません。
道具や技術が変化するときの混乱はたくさんありました。1930年前後には、ヒッコリーからスチールへとシャフトが変わるときに大論争。羽毛ボールからガタパーチャそしてハスケルへの変遷。スモールか、ラージかも長い年月をかけみんなで議論しました。パッティンググリーンではサム・スニードがラインをまたいで打ち「ストロークの不正」を指摘されると、サイドサドルスタイルに替えて我を通した有名な話がありました。パットラインをまたいでボールを押し出すのは違反だが、女性の乗馬スタイルの横座りにヒントを得た、ラインの横から打つ“スニード流”はついにルール上、公認され「パッティングスタイルに型なし」の伝統はかろうじて守られたのは有名な話です。
中長尺論争。どんな結末になるのでしょうか。支点を体の一部とすることの不公平か否かだけではないようです。ルールの総本山では、シャフトの長さとヘッドの大きさに断を下し飛びすぎるゴルフにストップをかけたばかりです。パターはドライバーより長いのはけしからん。そんな思いもあるのでしょうか。
クラブでボールを打ち穴に入れるゲームは600年を経てずいぶんとやり方が複雑に、確かに変わったな、と思います。
今回のことは、オリンピックイヤーにルールが大改正されるゴルフ界の習いでいうなら2016年、ブラジル・リオ大会直前まで議論が繰り返されることになるでしょう。ロングパターを使っている人、これから中尺に替えようとしている人。いやいや、議論にだけ参加する人もじっくり対策を練って楽しんでください。
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